第三話 親に紹介したい系

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 二杯目が空になって湯豆腐もつつき終わった頃、両親からお許しが出た流助は、にこにこしながら二人と一緒にカウンター席につく。グラスを手にえへえへと笑い、イオがそれにビールをついでやった。  客の一人が「コラっ、子どもがビール飲んでどうする!」と言う。 「大人!」と流助が言い返す。  どっと客が笑う。これも恒例のやりとりのようだった。店ではアウェーの鳥飼とイオもちょっと笑った。一人の酔っぱらった女性が流助に話しかける。 「流ちゃんよ、こんないい男たちとどこで知り合った」 「政府のマッチングサービス」 「えっ! 本当に? あれってどうしようもなく結婚したいけど相手がみつからない人が使うのかと思った」 「違いありません」  イオが控えめに補足した。 「ねーねー、そっちの大きいお兄さんはαでしょ? 流ちゃんはΩってことは、二人は『運命の番(つがい)』なの?」  興味本位の複数の目に囲まれ、どう返答しようかと鳥飼が困っていると、流助の母親が「はいサービス」といって、大皿に乗ったゆでたての落花生をどん、とテーブルに置いた。 「そっちのお客さんもどうぞー」  他のテーブルにもまわっている。どうやら常連からの差し入れのようで、それをみなに振る舞っているのだった。  みなの関心が落花生にいく。そのタイミングで流助がビールをあおりながら言った。 「『運命の番』かどうかっていうとたぶん違う、でも結婚したんだから運命には違いないよ」 「お前、言うね」とカウンターの中から父親が、顔をださず声だけ出した。客たちがわいた。  鳥飼がイオの様子をちらっと伺うと、イオは落花生の皮をむくのに集中していた。特に気分を害しているようにはみえず、ほっとする。  結婚してからよく聞かれる。みな、αとΩが結婚したからには聞かずにはいられないようだった。  聞かれる方からすると、うんざりする質問だった。  
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