第一話 ベッドの上の%

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 二十歳になってすぐ、政府主催の婚活サービスである「マッチングサービス」に登録した。  登録したとしても何年も音沙汰がない場合もあると聞いていたが、流助の場合、すぐに鳥飼とイオを紹介され、結婚するに至る。  高校を中退して以来、親が経営する居酒屋でずっと働いてきた流助にとって、イオと鳥飼は、初めての結婚相手で交際相手だ。全部が初めてづくしで、そのため他と比較しようがないのだが、鳥飼は想像していたαとまったく違った。  αは「他者を圧倒する性である」、と中学の性教育の教科書に載っていた。  それなのにβのイオよりΩの流助よりも控えめで優しい。流助が知っているどんな性別の誰よりも腰が低い。どんな人にも敬語を使う。  流助とイオがケンカすると必ず巻きこまれあわあわとする鳥飼が、教科書にあったように誰かを「圧倒」するなんて想像もつかない。  流助は鳥飼の大きな身体によりかかって、甘えるのがなによりも好きだった。この大型家電的安心感がたまらない。 「起こしてごめんね。俺がばたばたうるさく帰ってきたから」  ケガはなかったかと尋ねられたのに答えず、全然違うことを甘え声で話す流助にも鳥飼は鷹揚だ。 「いえわたし、睡眠は少しですむので」  αの眠りは浅いというのも授業で学んだ知識で、それは鳥飼にもあてはまった。  短い睡眠を細切れにとるのは、大昔狩猟が得意だったαのご先祖さまが外敵に常に注意を払わねばならなかった時代の名残で、今も残るαの本能の一部だという。  こんな風に第二の性の知識は、ほとんどが中学の保健体育で学んだ。  えっち動画やえっちマンガだと「αは絶倫」、以上、だ。(ちなみにΩは「とんでもなくド淫乱」だ)  学生の頃は勉強をする意味をみつけられなかったけれど、意外と人生の役にたってるよな学校、と流助は思う。高校は体調が安定せず、行ったり行かなかったりでちゃんと卒業しなかったので、中学ありがとうってなおさら思う。  
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