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お見合いサービスのような類のものは民間でも多数ある。政府のマッチングサービスが一回だけの紹介なのは、コストの面も大きいが、お見合い回数を重ねれば重ねるほど、決断ができなくなるという見合いの傾向を考慮してのルールだった。
「バクチじゃん。流助大穴当てたじゃん。だってαと結婚できるなんて超玉の輿」
「それは、」
上昇婚であることを露骨に言われ、鳥飼はスルーできず思わず話にわってはいった。
「大当たりだったのはわたしのほうですから!」
大人の男の感情むき出しの発言は、からかいたい常連たちにとって、いいトスだった。ひゅうひゅうとはやされ、拍手が起こった。
「のろけ!」
「あつ~い!」
「愛されてんな、流助!」
それから流助は、仕事に戻った。常連にかわいがられ、いじられながらも楽しそうに働いていた。
そんな夫の仕事ぶりを見ながら鳥飼とイオは、注文していないのに次々出される食べきれないほどの皿と、空けたらすぐ注がれるグラスに翻弄されつつ、あちこちから飛んでくる戯れ言をかわすのに精いっぱいだった。
「流助、もう今日はあがっていいよ」
店先で何度もお辞儀をし、さよなら、また、と何往復も別れの挨拶を義両親と交わし、やっと三人だけになって家路についた。
今日は支払いを受けてくれた。流助がまえもって両親に話をしておいてくれたようだった。それでも受け取ってくれたのは実際飲食したものの半分くらいだ。
流助は斜め掛けバッグにサンダルをならしながら楽しげに前を歩く。時々振り返って後ろ向きに歩くのだが、いろんなものにぶつかりそうで、はらはらする。
そういう鳥飼も思いのほか酔っぱらってしまっていて、足元がおぼつかない。流助とイオに「しょうがないな~」と言って両脇を支えられる。
「すみません、緊張がとけたのかもしれません」
「えー、なんで緊張するんだよ~。高級店ならいざしらず~こんな下町の居酒屋~」
歌うようにふざけた様子で言う流助に、イオは反論する。
「違うって、流助。だって流助のホームだもん。お義父さんお義母さんは当然として、店のお客さんにもよく思われたいんだよ、ぼくらは」
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