第三話 親に紹介したい系

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   同じ家に住んで同じものを食べる。  同じベッドで愛し合い、眠る。    これまでの恋愛ではたとえ暮らしを共にしても、常に傍観しているような気持ちがなくならなかった。そもそも人生すら傍観しているみたいに生きているのだからそれは鳥飼にとってむしろ自然なことなのだった。  しかし最近はそう思うことがだんだん減ってきているように感じる。  イオが以前言っていた「まぼろし」についてずっと考えている。  写真に撮られたイオがまぼろしだというのなら、αである自分もまた、まぼろしだ。 「ぼくはここにいる」  イオは確信犯のようにはっきり言った。  イオはどんな写真をとられようが裸を見られようが、一切ゆるがない。それはきっと本当の自分の在り処が明確だから堂々としていられるのだ。  ならば鳥飼も、αとして社会生活を居心地悪く営む自分はまぼろしで、本当の自分はちゃんと別に、安全な落ち着ける場所にいる。  そう思うと、ことのほか頭と心がすっとした。  これが家庭か。「居場所」というものか。  生まれた家庭は自分では選べないが、結婚後の家庭は自分で選んで、自分で作りだした、自分だけのものだ。  言葉にしてしまえば相当大げさであるが、すべてがクリアになった。  二人の夫の前でいる自分はまぼろしじゃない。    会社につく。携帯が震える。起きて活動を始めたらしい流助から仕事がんばってメッセージだった。続いて、変なカタチで寝ているイオの画像が送られてくる。自撮りのようで、流助のあえて作った真顔が目元だけ見きれている。  正座したまま前に倒れたようなカタチでイオはぐっすり眠っているのだった。数秒のタイムラグで、「土下座謝罪睡眠」とメッセージが表示される。  あまりに面白いのでオフィスなのに思わず声がでてしまい、咳払いでごまかした。  こんなイオ、いつものすました様子から絶対想像できない。  あの広告の理想の結婚相手も、家に帰るとこんな妙な寝相だったりするのだ。  それが結婚なのかもしれないと、鳥飼は訳知り顔で誰かれなしにふれてまわりたくなる。
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