第四話 そうなったのには理由がある

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 イオが流助の健康状態に神経過敏になってしまうのは、結婚前に起きたアクシデントが深く関係していた。  今から一年半ほど前、交際をスタートさせ三人の仲も徐々に進展し、結婚も現実味をおびてきた頃のことである。  鳥飼が定期面接の際、結婚の意思を固めつつあることを担当コーディネーターに報告したところ「でしたら、そろそろ三人で婚前旅行にでも行かれては」とすすめられた。 「旅行ってその人の人間性がでるので、結婚生活の練習にもなります。それと」  その後、とんでもないことをさらっと言われてしまう。 「そろそろ性交渉も済まされたらいいですよ。性的なコミュニケーションは結婚において大変重要なことですから」  あまりにもストレートすぎて、鳥飼の笑顔は固まり、イオはのけぞり、流助にいたっては変な声をあげた。なぜ済ませていないことを見抜かれたのか、いまだにわからない。   お役立てくださいと渡されたコミュニケーションシートは、アンケート形式のもので、質問事項は性指向に始まり、性行為の傾向や好み、または絶対NGなプレイ、これまでの性遍歴など、直截なものだった。  結婚相手とのコミュニケーションを円滑にするためのもので、これまでも別のテーマで利用してきた。完成したらメッセージアプリで共有することになったものの、さすがに今回は記入に手間どった。赤くなったり青くなったりしながら書ける範囲でうめる。  そこへ携帯が新着を知らせたので、何気なくアプリを開く。  流助のシートがいきなり表示された。「セックス未経験」にどうどうと大きく力強い〇がついている。あとは真っ白だ。鳥飼はわっと思って、即座にイオだけにメッセージを送った。 『見ました?』 『見ました』  翌日鳥飼の職場の近くのカフェで、二人だけで会うことになった。
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