第四話 そうなったのには理由がある

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 鳥飼は三十三、イオは三十、二人とも流助より年上でそれなりに経験もある。ここは慎重に事を進めねばならぬ、という点で二人の意見が一致した。  どんな段取りにするか、流助をどのようにリードするか。 「我々でいいんでしょうか」 「なんというか……大役って感じ……」  婚約者が童貞処女。  にこにこと明るく無邪気な流助を思うと、保護者みたいな気持ちにすらなる。背徳感がはんぱない。そう思うのは鳥飼だけではないようだった。それが救いと言えば救いだ。  真面目に話している最中に、イオはそういえば、というように話をかえた。 「見ましたけど鳥飼さんの性指向って固定なんですね。α男性って、みんなそうなんですか?」 「はい、例外はないと思います」  α男性は融通がきかない。セックスでは受け身をとれない。試す気もさらさらない。マウントをとられるくらいなら死んだ方がましとすら、思っている。だからコミュニケーションシートにも正直にそう書いた。 「イオくんはその、」  もうすでに暗唱できるほど読みこんでいたが、イオの出方を伺うように聞くと、ケロッと答えられた。 「割と相手に合わせられるタイプですね。女性とつきあったこともある……ただ、したくないことは絶対嫌ですけど」  それは相手に合わせているといえないのでは、と鳥飼は思ったが、口にはしなかった。フリー記入欄にNGなプレイが細かく書かれていた。それは鳥飼が好きなことも含まれていて、内心がっかりしてしまった。  しかし自分も譲れない部分がある以上、相手にあまりいえたものではない。許容範囲の中で譲歩しあうのが大人というものだ。  いや、文句をいうなど贅沢すぎる。  流助のことばかり考えていたが、この美しい人とも近日中に関係をもつのだ。当たり前のことをあらためて思うと、どんな顔をしていいかわからなくなる。
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