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「その、ええと、……いろいろ、今後ともよろしくお願いします」
こんな時、フィルタグラスをかけていてよかった。ギラついた自分の瞳を見られずにすむ。
「いろいろ? ……いろいろかー、ふふっ、なんか恥ずかしい。こちらこそよろしく」
イオはアイスコーヒーのストローをもてあそびながら、余裕の表情だった。こういう慣れた風の返しからも、今までめちゃくちゃモテてきたんだということがわかる。そりゃそうだろう、こんな美しい人、周りがほうっておくわけがない。
「あともういっこ、鳥飼さんに聞きたいことが」
「は、なんでも聞いてください」
「鳥飼さん、その、シてる時は、フィルタグラスはつけっぱなしですか?」
「え、と、さすがにはずします」
「やった」
「……は、」
「鳥飼さんの目、見放題だ。楽しみが増えた」
ふふっとイオは笑った。その意味深な表情にくらっとする。
はずしたら、見えすぎてしまう。
イオの薄ピンクと流助の強い橙。
一度だけ、フィルタグラスを二人の前ではずした。
コーディネーター同席の、二回目の面接の時だった。
フィルタグラスは、鳥飼にとってもはや顔の一部みたいなものなので、つけていること自体、普段忘れてしまっている。しかし常識で考えると帽子やマスクをずっとはずさないでいるのと同じで、素顔を見せないのは相手に対し大変失礼だ。
鳥飼は、初回の面接の後で自分がフィルタグラスをずっとつけたままだったことに気づいた。緊張して忘れていた。
次に会う時は謝罪し顔をちゃんと見せよう、そう誓った。なのにまた忘れ、それを突然思いだして、勢いでフィルタグラスをはずしたのだ。
しかし、はずしてすぐに「しまった!」と思った。
二人が本当に輝いて見えた。
パニックになって反射的に目をぎゅっと閉じてしまった。まぬけの極みだ。
二人の姿をまともに見てしまって、自分の意思とは関係なく身体がもよおすことを恐れた。
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