第四話 そうなったのには理由がある

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「わー、イオくんちょうどいい……」 「本当ですね。大きさも長さもかたちも本当にすばらしい」 「あっ……ええと、……普通なだけかと。それからその、あんまじっくり見るのはマナー的にどうかと」  そんなこともありつつ、手をつないだり軽くキスをしたり。お互いの距離と関係をゆっくり進めながら三人はXデイを迎えたのだった。  旅行当日、鳥飼が車を出した。目的地は海沿いの大型リゾートホテルだ。今回あえて大きなホテルをとったのにはわけがあって、小さなホテルだとスタッフに顔を覚えられフレンドリーにされる可能性があるからだ。それはさすがに目的が目的なだけあって照れくさいし気まずい。  車の中で流助はしゃべりっぱなしで、いつもよりさらに落ち着きがなかった。  身体中から「嬉しくてしょうがない」があふれだし、いても立ってもいられない様子だった。そのはしゃぎぶりに鳥飼までも浮足立つ。  流助いわく、体調が安定しなかったのと、休業日がほとんどないため、旅行など何年も行っていないということだった。友だちとでかけるという誰にでもあるありふれた経験さえ、子どもの頃にしかなかった。青空の下の明るい口ぶりに反して、話す内容は重い。  交際相手との泊まり旅行など、興奮して当たり前だ。  もっと流助にいろんな経験をさせ、嬉しがらせ驚く顔が見たいと鳥飼は思う。いろんな場所に出かけ、楽しいことばかりを続けざまに与え、これまでのマイナスを塗り替えてやりたいと思った。  イオはというと、ハイテンションの流助にうんざりした風を装って「こーら、落ち着け」とか「ったく、菓子をこぼすな!」などとブツブツ小言を言っている。しかし鳥飼と同じような気持ちなのは明白だ。
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