第四話 そうなったのには理由がある

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 次にどこに行きたいか、何をしたいかを流助からさりげなく聞き出そうとしている。流助が話しだすと熱心に耳を傾けている。運転席から伺う後部座席は騒がしく幸せで、鳥飼はイオと流助の仲の良い言い合いに何度も笑わされた。    休憩をかね、山の上の展望スポットに寄ることにした。駐車場に到着すると、流助は「俺がいちばーん」と車を降りるなり駆けだした。 「ちょ、ずるい!」  イオが負けじと流助を追う。  子どもじみた煽りに簡単にのせられてしまうイオが、大変チョロく、かわいい。  車をロックしている間に二人の姿はもう見えない。しかし本気ダッシュですぐに追いつける。驚かせようとほくそえんでいると、携帯が鳴った。楽しい気分がすっと冷めた。母親からだった。  鳥飼は二台の携帯を使いわけている。一台は普段使い用、一台は家族専用機だ。家が広いため、子どもの時分から携帯を持たされた。頻繁にかけられると他の連絡の邪魔になる。二台持ちは、最近のことではない。 『あなた結婚するんだって?』 「一応そのつもりですが」  電話に出るなり単刀直入に言われて、即答する。いずればれるとは思っていたが、とうとう母親の耳に入ったようだった。  母親はα女性、父親はα男性、つまり鳥飼は生粋のαだ。  産んだのはβの代理母で、育ててくれたのはβのナニーで、鳥飼が子どもの頃、両親は仕事とパーティー三昧でろくに家にいなかった。寂しいと思った記憶はないが、両親、特に母親とはおもしろいくらい馬が合わない。  鳥飼の母親は気まぐれで、あまり人の話を聞くタイプではない。  結婚してもイオと流助には、なるべく会わせたくなかった。イオと流助に失礼な態度をとり、無神経なことを言うのが目に浮かぶのだ。  結婚に対し何か言われたら、どう反撃しようかと考えながらの通話だったが、母親は最初の一撃以降は何も攻撃してこず、どうでもいい話ばかりをし、一方的に通話は切れた。  鳥飼はほっとして電話をしまう。その時もう一台がオフになっていることに気がついた。家族用をすぐオフにする癖があるため、誤って普段使いの方を切ってしまっていたのだ。あわてて起動させるとイオからの通知が何件もたて続けに表示された。  コールバックした。  すぐにイオが出た。 『鳥飼さん、今どこ』  切迫した声だった。
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