第四話 そうなったのには理由がある

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 今すぐ助けてやりたいと思いながら、ドア一枚隔てた先から漏れだす強烈なフェロモンにくらくらする。はずしていたフィルタグラスをあわててつけた。 「あんた連れ? いい匂いさせているΩと、美人のβ。二人を乗りこなしてるなんて豪勢だな。お嬢ちゃんたちのどっちか一人でもいいから俺らに譲ってくんない?」  ライダースジャケットが鳥飼の肩に手をかけた。その手を強く振り払った。  男が鳥飼の胸倉をつかもうとした。  考えるより先に身体が動いた。  絡んできた男を気づけば地面にねじふせていた。その時相手の指にはじかれて、鳥飼のフィルタグラスが飛んだ。体勢を整えようとした際、誤って自分でそれを踏み割ってしまう。鳥飼は舌打ちをした。 「てめっ、この……」  男がイキった様子で、反撃しようと鳥飼を睨んできたが、顔をしかめる威嚇の表情で睨み返した。男はその瞳を見たとたん、黙った。  相手が一気に脱力してゆく様子を冷めた視線で見届ける。後じさり、腰がぬけてしまったように、尻もちをついている。  α同士は目の色で互いの優劣を把握することが可能だった。男性女性かかわらず、αとαが本気で真正面からやりあえばどちらかが死ぬか致命傷を負ってしまう。勝っても負けても両者にメリットはない。  無用な血が流れるのを避けるため、戦わずして勝敗が決まる仕組みが遺伝子にくみこまれている。α特有の生存戦略だった。  一番目立っていたその男が群れのリーダーだったようで、男の様子を見て他の男たちも急速に勢いをなくしてゆく。 「……くそっ、てめえのメスくらいちゃんと管理しろ!」  去り際に捨て台詞を残して全員がバイクで発進してしまうと、誰もいなくなった。改めてドアの前に立つ。それだけでぞわぞわした。甘い香りが強くなっている気がする。逃げたくなるがなんとか踏みとどまってノックした。 「わたし以外もう誰もいません、開けてください」 「……」
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