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怯えているのかそれとも中で何か起きたのか、返事がない。これ以上一秒も待てない。
「今から無理やり開けます。ドアから離れてください。……怖がらないで」
緊急事態だ。あとで施設管理者に謝罪と賠償をすればいいと判断し、スライドドアの取っ手部分を蹴り上げる。数度の蹴りでロックが破壊された。
ドアを開けると、トイレのすみでイオが流助の華奢な身体を守るよう抱きしめていて、怯えた顔でこちらを見る。目が真っ赤になっている。
「……遅い、よ」
イオが口を開く。
「……俺が全部悪いの、ごめ……」
流助がとても小さな声でつぶやく。
ドライブ中ずっとはしゃいでいて、先ほどまで元気よく展望台に向かって走りだしていたというのに、まったく見る影もなかった。
鳥飼は先ほどもみ合った時に、フィルタグラスが破損した。何も隔てず二人をまともに見ることになった。息があがりこめかみがキン、とする。
直後、自分の脳内にイメージが勝手に浮かんだ。
イオと流助、いたいけな二人を壁に押しつけて後ろから順番に犯す。抵抗して泣き叫んでも無理やりねじこむ。そんな映像が、自分の意思とは無関係に現れた。
流助は、濃い匂いを身体中からたちのぼらせている。イオはその橙ごと抱きしめている。影響を受けないわけがない。βもαほどではないが、Ωのフェロモンと無関係ではいられないのだから。
ひょっとしてイオは、鳥飼のペニスが欲しくて欲しくてたまらないんじゃないだろうか。
そんな根拠のない思考を振り払う。性欲が見せる勝手な幻影だ。事実とは違う。
どんどん膨れ上がる欲望を、なんとか力づくで理性という狭い場所におしこめた。だが時間の問題だ。いつか爆発する。自分ではどうしようもなくなる。
己の渇きに抗っても、衝動が暴れだすまであと数秒といったところだった。
「……これが、Ωのヒート、なの……?」
「……ごめんなさい……ごめんなさい……ぜんぶ俺が悪いんだ……くすり、のんだから、すぐ、効くとおもうから、」
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