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「奴ら全員αでした。ヒートの時のΩフェロモンは、αの五感に直撃します。たぶんたまたま通りかかったんでしょう」
「ヒートって……Ωの発情期って、毎回こうなの……?」
「人によると思います。流助さんから聞いた話だと、ここまでひどくない印象でしたが。ひょっとしたら体質が変わったのかもしれません」
「……薬のめば平気なんだと思ってた」
「Ωのヒートについてはまだまだわからないことが多い」
「鳥飼さんはすぐヒートだってわかったんだね」
「匂いがします。甘い匂い。あれはΩのフェロモンです。いつも微量に匂っていますが、今日は胸が苦しくなるほどに濃かった。イオくんも少しは感じませんでしたか」
βでも鼻がきく者は感じる。イオは首を振りかけるが、はっとして思ったことを口にした。
「そういえばしたかも。シャンプー変えたのかなって呑気に思ってた」
イオは自分のまぬけさをちょっとだけ笑い、しかしすぐに顔をこわばらせた。
「流助が流助じゃないみたいになって……知らない男たちに囲まれて……守らなきゃ、って、……でもあいつら、体格もでかくて、目がギラギラしてて大勢いて……絶対叶うわけないってわかった。だから……逃げて……鳥飼さんの携帯鳴らして……すごく、すごく、こわかった」
「……わたしがイオくんからの電話にもっと早く気づけば」
「……何度もかけたんだよ? ほんと何してたんだよ」
イオは鳥飼をなじった。鳥飼はイオを抱きよせる。
「誓います。これからは何があってもすぐに電話にでます。……こわい思いをさせてすみませんでした」
鳥飼は、イオの目を見る。イオも鳥飼の目を見る。割れたフィルタグラスの壊れた箇所を無理にテープでとめてつけていた。フィルタグラスを隔てたこちら側には、まだ獣の目が存在する。
「……わたしが、流助さんが、こわくなりましたか」
鳥飼は大きな手でイオの肩にふれる。イオはぐっと唇をむすぶ。触れられることに一瞬恐怖を覚えたのは事実だった。
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