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その授業を受けた時、流助は「なんだそれ!」と心の底からたまげたのだ。
今まで男も女も第二の性も関係なく一緒くたに成長してきたのに、第二次性徴を境に、α、β、Ωという第二の性によって選別され、違う人生を歩むとはっきり宣告される。
自分が先生の言うような「脆弱」で「保護が必要」なΩであると知ってからも、ヒートと呼ばれる発情期がくるまでまるで他人事で、「そんなこと言われてもな~」と半信半疑だった。流助はΩの中でも成長がゆっくりで、ヒートを経験するのも十代の半ばと遅く、このまま何もないのではとすら考えていた。
自分がΩであるというだけで、こんなにも不自由な生き方を強いられるなんで、その時の流助は思いもしなかった。
台所の床は冷たくて、鳥飼にもたれると大きな身体はあったかくて、自然に笑みがこぼれる。
俺のα。俺の安心家電。
「常連さんが閉店間際にきて、おごってくれて店長も厨房も一緒に飲んだ」
「それは楽しかったですね」
鳥飼は微笑む。瞳の色や形が見えなくても声が笑っているからきっと目も笑っている。その気配に簡単に嬉しくなってしまう。
「そうだ流助さんに見せたいものがあるんです。ほら、こっち来て」
「?」
ほら、と鳥飼は手をだした。鳥飼の手は骨っぽくてがっしりしている大人の男の手。流助の小さな手はその手にすっぽり包まれる。まだアルコールでふらふらしながらよいしょっと立ち上がる。
廊下で転びそうになったのを「おっと」と支えられる。
唇に指をたて、静かにね、と穏やかに言う大きな翼をもつ鳥のような鳥飼に、流助は「静かに」って言われると余計に笑いだしたくなるし、と心の中で反論するが、また「しーっ」てされると思って何も言わない。つないだ手の指に力をいれる。
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