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ケガの功名とでもいうべきか、こんなハードな初体験をしてしまった三人は、以前より絆が深まった。他人行儀さが一気になくなって親密になった。
物事は計画通りにいかない。
人生いい時もあれば調子の悪い時だってある。この先長い。困難な状況になることだってあるだろう。
でもきっとこの三人なら大丈夫な気がする。結婚してもやっていける気がする。
それは三人があの経験を経て、たどりついた感覚だ。少なくとも鳥飼はそう思っている。
キャンセルとなった旅行は、結婚してからもうそろそろ一年になろうとしているのに、まだ果たされていない。
来月になれば鳥飼は長期の休暇をとれる。一週間くらい南の島でも行こうという話になっていて、それが事実上の新婚旅行になるはずだ。リベンジだ。
流助は驚喜し、初めて作ったパスポートをさっそく一度なくした(その後イオの部屋で服の下からなぜかでてきた)。イオは何かあった時のための対策に余念がない。医療品をかき集め、それがリビングの隅に山になっている。
旅行中はお揃いの時計をつけよう、そうすれば流助が迷子になった時にこの時計をつけている子、っていえばわかりやすい。イオが鳥飼に真顔で提案してきた。
えっ、と思いながら、しかし確かに流助が迷子になるのは大いにありえる。デザインがちょっと恥ずかしいが、背に腹はかえられない。とうとうあの時計をつける日が来るのか。しかも三人で。
しょうがないな、と思いながら、鳥飼は一人の時に時計をつけたりはずしたりするのだった。
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