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約一年九か月前、とある居酒屋。
郵便受けに淡いブルーのはがきを見つけた淵流助は、その場で小躍りした。ばたばたと足踏みし、声を出さず叫ぶ。
はやる気持ちで圧着面をはがす。緊張のためうまく開けず破損しそうになる。
もしかして大きく「ハズレ!」なんて書いてあったらどうしよう。
そんな杞憂をふきとばすように、「おめでとうございます」の文字が目にとびこんできて、またその場でじたばたする。
いったん落ち着こうとしゃがみこみ、案内を注意深く読んだ。そこにははがきを受け取った者が得たチャンスの内容と、次のステップが書かれていた。区役所に併設されているマッチングセンターに明日連絡する。すべてはそれからだ。
流助は突然、そして思いのほか早く舞い込んできたラッキーに、意気揚々と店に戻る。父親が店を開ける前に必ず座って新聞を広げるテーブルにわざとらしくそれを置く。
開店準備をしながらそわそわして待っていると、仕込みが終わった父親がさっそくそこに座った。しかしそのはがきをろくに見もせず、脇にどけたので、「おい!」と声を荒げた。
「なんだよ、うるせえなあ」
「だーら、これ!」
目の前につきだされたはがきを、父親はめがねをかけてしげしげと見た。
「お前これ」
「そう」
騒ぎをききつけて出てきた母親が、父親の手からはがきを奪った。
「流ちゃん、あんた、あら、あらあらあらあら」
言ったきり無言で、案内を読みこむ。
「あんた、これ本当に申しこんだんだね」
「うん。明日電話する。結婚だ結婚!」
天下をとったかのごとき流助に、両親は顔を見合わせた。
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