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省吾は嫉妬していた。その嫉妬の相手はスマホやら紙やら。
理由はこうだ。恋人であり、憧れのケータイ小説家である涼宮瑠璃子、本名桜田真奈は省吾にあまり構わない。
作品が好きになり、TwitterやLINEでやり取りし、何度か会ってようやく恋人になれたというのに一緒にいても作品を更新し続けている。
いや、大好きな先生の作品が増えるのも執筆してたりするのを見れるのも嬉しいんだけど……でもなんか違う。せっかくのおうちデートくらい恋人らしい事をしたい。
「はぁ……」
ため息をついたのは省吾ではなく真奈の方だった。
「どうしたの?先生」
「んー……行き詰まった」
真奈はそう言ってもう1度ため息をついた。
「珈琲飲む?インスタントだけど……」
「うん、頼んだ」
省吾は台所でインスタント珈琲を淹れる。省吾自身、珈琲は苦手だ。けれどたまに恋人である真奈にあわせて飲んでみたりもする。ミルクを入れないと飲めないが。
「はい」
「ありがとう」
真奈はカップを受け取り、一口飲むとチラリとスマホを見る。
「今はどんなの書いてんの?」
「恋愛もの書いてみてるんだけどどうもね」
真奈はそう言って本日何度目か分からないため息をついた。
「じゃあさ、俺に構ってよ」
「構うと言っても何をし、んんっ!?」
省吾は真奈に強引なキスをする。僅かに珈琲の味がした。
「き、君は何をするんだ!」
真奈は口元をおさえ、真っ赤になりながら言う。
「珈琲は苦手だけどこれはくせになりそう……。ね、先生は?」
「知らない……。というか2人でいる時は先生って呼ばないって……」
「だって今の君は先生の顔をしてる。せっかく俺の家に来ておうちデートしてるのにプロット書き足すか小説の更新してるかでさ……。恋人でいてくれようとしないんだから。というか先生さ、俺が初めての恋人って言ってなかったっけ?そんな人が恋愛もの書くのは難しいと思うけど?」
「それはまぁ、一理ある……かもしれない」
真奈はそう言って省吾から目をそらす。
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