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「ほら、早く来いよ、優!……チャンスは待ってはくれねーぞ!!」
「わかったから、そんなに急がないで……ほら、もう一度だけ、お客様の要望とかデータとか、見ておこう?」
結局、社長は採用をその場で決めてくれた。
その時の社長の言葉が、
「まずは社会復帰してからだ。会社の厳しさ、社会人としてのルール、世間の目……君はそれをしっかり感じて、受け止めてほしい。その上で、ここを巣立つも良し、ここで普通の社会人として生きるも良し……。それは、俺でも勝でもない、君が考え、決めるんだ。」
……だった。
俺は、この時の社長の言葉を、きっと忘れないだろう。
その言葉は、俺がいちばん優に言いたかった言葉だったのだから。
「なぁ……優、少しだけ休もうぜ~」
別に疲れてなんていなかった。
ただ、少しだけ俺の前を歩く優が、なんだか昔の、『優等生』の姿と重なったから。
『あの時』、優を見つけた、更地の自販機。
実家に帰れば、飲み物なんて冷蔵庫に入ってる。
それでも……
「おい、優……100円貸してくれよ」
この言葉が、無性に言いたくなったんだ。
「優、もう今じゃ僕の上司でしょ?逆に、僕に100円貸してよ」
きっと、親友なんて、こんなもの。
「……わりぃな。5000円札しか財布にねーんだ。」
「……感じ悪。」
笑いながら、優が俺の手のひらに100円玉を落とす。
「……サンキュ。なぁ優、俺達さ……」
100円玉を、指で弾く。
表が出たら、言う。
裏が出たら…………。
手のひらの100円玉を見る。
裏。
「……いつまでたっても、親友でいよーぜ。」
裏が出ても、結局言う。
「……ありがとう、君には助けられてばかりだ。」
「そんなことねーよ。お前は、いつでも俺を助けてくれたからな。」
俺のポリシーは、『言いたいことは言いたいうちに言う』。
お互い、裏と表の関係かもしれない。得意分野も性格も、全くの逆。
それでも……
『表と裏があるから、ひとつの意味を成すものだってある。』
そう、この100円玉のように……
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