100円玉の友情

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「……また、落ちた。」 乱暴にネクタイを緩め、俺は喫茶店のテーブルに足を投げ出す。 「強……お店の人に迷惑だから……。」 そんな俺に困った顔をする、高級ブランドのスーツを着た青年。 俺は、7回目の採用試験に落ちた。 毎度毎度、引っかかるのは、2次試験。 「強、面接用の参考書、ちゃんと読んでる?」 「あ?……そんなもんあんのか?あるなら2社目くらいで教えろよな~」 「いや……1社目でなんとなく用意しておくものでしょ……」 半ばあきれ顔の優。 「お前はいいよな~。跡を継ぐだけで一気に役員なんだからよ。」 優は、父が経営する会社の後継者に認められ、今では若き専務理事。 若いながらも豊富な知識と交渉力で『敏腕』として評判をめきめきと上げている。 「強だって、その行動力は営業に向いてるよ、絶対。敏腕営業マンになれるよ。」 かくいう俺は、土方のバイト、コンビニのバイト、ホストのバイト…… ……そろそろ定職に就くかと決めたのが24歳。 大卒が22歳。 思いっきり出遅れた就職活動。 どの会社だって、2年間ふらふらしていた奴よりは、新卒が欲しい。 しかも今は不景気、採る者は慎重に選びたい。 なんとも、俺には不利な状態。 「敏腕営業マンになりたくても、会社が採ってくれなきゃ敏腕にもなれねーよー」 自業自得。 それでも、俺はため息を吐かずにはいられなかった。
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