秘密に触れないで

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 真夏の河川敷はむせ返るような草の匂い。頭一つ分小さい朝日は、完全に草に埋もれてしまう。手を握って草を掻き分けて川を目指す。途中にその中で手を離すと、朝日はおろおろとうろたえて方向を見失う。不安そうに困っている様子が、たまらなく可愛くて、俺はその様子をこっそり眺める。でもその思い出を語り合う日は二度と来ないだろう。河川敷も、水門も、プレハブ小屋の記憶も無くしてしまってかまわない。もう二度と一人にはしないから。俺から手を離すことは二度とないから。泣かないで。    猫はソファの上に飛び乗ると丸まって絡まったままの俺たちを見下ろす。俺は俺の胸に頬をくっつけて目を閉じる朝日に囁く。 「ねえ、あの猫、目付き悪過ぎない?」  すると驚いたように目を開いて言った。 「え?かわいいでしょ?」  そして柔らかく微笑む。 「トモにそっくりだもん」  朝日が俺の前髪を両手で書き分ける。指先で眉と瞼をなぞり、唇を三本の指を軽く押し付け、口の中に指を差し込む。舌を愛撫するので、俺は口を閉じ窄め、指を動かせなくする。朝日が唇を尖らせる。吸い上げて舌でなぞるとぴくりと震える。俺は朝日の指を掴むと、また深く口付ける。 終わり 2017/11/06
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