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「明日も同じ時間な」
男がスマホをいじりながら言うと、小さな声を奮わせた。
「毎日は・・・・・・無理です」
「何だと?」
座ったままの男が朝日を睨みつける。
「親にバレたら」
「友達と自由研究でもやってるって言っとけよ」
舌打ちしてまたスマホを操作する。
「天体観測でも何でもあるだろ」
そして朝日にスマホの画面を向けると笑った。
「お前の写真はいっぱいあるんだぞ。ネットに流してもいいのか」
朝日は気の毒になるぐらい真っ青な顔をして、唇をカタカタ震わせながら首を振る。男は朝日の腕を掴むと引き寄せる。崩れ落ちる朝日の後頭部を掴むと目前で言った。
「言うこと聞けないなら罰を与える。二度と口答えするな」
そして突き飛ばす。体重の軽い朝日は簡単に畳の上に転がった。粘っこい男の視線に怯え、慌てて立ち上がる。俺はプレハブ小屋の影に身を隠した。朝日は泣きながら、覚束ない足取りで水門の方へ消えた。俺は声を漏らさないようにきつく唇を噛んだ。
翌日の夜が来た。昨日よりも二時間早く家を出る。
「友也、あんたこんな遅くにどこ行くの?」
玄関で母親に見つかり、しまったと思った。この時間にベランダから出るのは逆に目立つと思ったのだから仕方がない。
「朝日と宿題。天体観測しに公園行く」
そう答えると、母親はさほど気にもとめずに言った。
「気をつけてね」
俺はその夜も昨日と同じように水門を渡った。プレハブには朝日も須藤も来ていなかった。小島側の水門の端の影に身を隠し男の到着を待つ。
先にやって来たのは、朝日だった。
相変わらず水門を渡るのが遅い。恐る恐る足を出しながら、ゆっくりと進む。早く小屋へ行ってくれないだろうかとヤキモキしていると、中央付近の窪みの影に蹲ってしまった。
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