#3 夢

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 あれから一か月経った。季節は秋へと色を変えていた。僕は、ブレイクがお気に入りの店になり、勉強をするという口実で、店にちょくちょく通った。時間がある時は、陽菜ちゃんの淹れてくれたお茶を飲みながら勉強をするようにした。たまに、参考書を見るフリをして、陽菜ちゃんを盗み見たりした。 ――そんな風にというと、ストーカーみたいだけど、そうじゃない。  僕は、陽菜ちゃんとどうこうなりたいとか、そんなんじゃなくて、彼女が、僕の為に真剣にお茶を淹れる姿を、一目見たいだけなのだ。彼女が頑張っている姿を見つめると、不思議と勇気が湧いてくる。諦めてた夢に、希望が持てるのだ。  それに、彼女はカワイイから、きっと彼氏だっているだろう。ショックを受けたくないから、それは触れないように、他愛もない話を続けていたけど、実のところ気にはなっている。しかし、聞いたところでどうにもならないのは、解っている。僕みたいな冴えない男が彼女に恋をしているなんて、知られたくなかった。笑われるのが、オチだろう。口が裂けてもそんな気持ちは言えやしない。 「おかわり、持ってきたよ」  陽菜ちゃんが、カウンター越しにロイヤルミルクティーを僕の前に置いてくれた。さっき、一生懸命僕の為に淹れてくれたお茶だ。 「ありがとう」僕も、心を込めてお礼を言った。一生懸命僕の為に淹れてくれたお茶だから、毎回、大切に飲んでいる。
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