#1 雨

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 その日は、予備校の模試テストの結果が散々で、僕はあてもなく街を歩いていた。足取りは重く、見るもの全てが僕の気持ちを憂鬱にさせた。楽しそうに歩いている、僕と同じ歳くらいの女子高生二人組にまで、何だか嫉妬を覚えた程だ。  僕は、見た目も冴えないし、名前もダサ井と呼ばれている。多田井 桔平(タダイ キッペイ)――僕は悪くない名前だと思うが、見た目が冴えないせいで、タダイからダサ井と陰で呼ばれているのだ。そんな僕だから、十八年間生きてきて、彼女の一人も出来た事は無い。エンジョイスクールライフなんかには、無縁の男だ。  だから、勉強だけが取り柄で、必死に頑張って来たのに、テストの結果に打ちのめされた。  僕から勉強を取ったら、何も残らない。  生きてる価値も無い、無い無いずくしのつまらない男だ。  かといって、死んだりする勇気も無い。  そのテスト結果は、毎日をつまらなく生きている最中の出来事だったんだ。  何度ため息を吐いただろう。この憂鬱な息を。  空だって、朝は晴れていたのに、今はどんより曇っている。分厚く重たい曇り空は、まるで僕の心模様かと思うくらい、同じ色をしていたと思う。  今日だけで何百回と吐いたため息が出たところで、僕の頬に冷たい滴が落ちてきた。雨だ。
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