#1 雨

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 思わず舌打ちしたい気分になった。この上雨まで降ってくるなんて、本当にツイてない――そんな風に思っていたら、いきなり雨の勢いが増し、ざあざあと降ってきた。  マジかよ!?  傘も無いため、雨宿りをするしかない。とりあえず近くの建物先に避難だ。慌てて走って手頃なところを探すと、喫茶店が見えた。『喫茶・ブレイク』と書かれた看板が軒先に、そして、飲食店によくある小さな電気看板が、店の前に置かれていた。夕方になったら外の電気にコンセントを差し込み、パッと電気をつけるタイプの、あの看板だ。  僕はその店の軒先を借りて、勝手に雨宿りをさせてもらった。空から落ちてくる大量の雨を、そこから見つめた。しかし、雨はやみそうにない。降水量も変わらない。  ふと入口横を見ると、ガラス張りの中に、食品ディスプレイが並んでいる。左から、カレー、スパゲティナポリタン、スパゲティーミートソース・・・・他にも喫茶店定番のメニューが所狭しと並んでいる。ディスプレイだから偽物なのは承知しているが、美味そうに見えるのは何故だろう。  カランカラン  ディスプレイをぼんやり眺めていたら、入口が開いてドアベルの音がした。中に居た客が、外へ出てきたのだ。続いて、ありがとうございました、という可愛い声。店主と思われる女の子が笑顔で客を見送っていた。その、彼女と目が合った。
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