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「いらっしゃいませ! どうぞ。空いてますよ」
「あ、いや、その・・・・」
店の軒先で雨宿りさせてもらっていただけ、と図々しい事がはっきり言えない性格のため、笑顔を湛えている彼女の申し出を断ることができなかった僕は、仕方なく店内に入った。
まあ、お茶を飲むくらいの小遣いは持っているから、大丈夫だろう。喫茶店で何万円もの支払いは無いと思う。せいぜい何百円、行っても千円程度ってところか。
店は、入ってすぐレジが右に設置してあり、正面に六席のカウンター、更に左右の窓側にも四席ずつカウンターが配置してある。そして左右対照に、四人掛けの小さなテーブルと椅子が四組ずつ、通路を挟んで並んでいる。まあ、よくある普通の小さな喫茶店だ。内装はダークブラウン基調の、アンティークカフェのような雰囲気で、僕は素敵だと思った。珈琲等、落ち着いて飲むには良いかも知れない。
「初めてですよね。どうぞ、こちらに」
カウンターのど真ん中に案内されてしまった。できれば端っこで大人しく珈琲でも飲んで帰ろうと思ったんだけどな。
そんな事もさえ言う事が出来ず、僕は案内された席までやって来た。店内は、僕以外もう誰もいない。さっきの客が最後の客だったのだ。そりゃあ、こんな学生にさえ声をかけたくなる筈だ。
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