#1 雨

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「ご満足いただけて、何よりです」 「あのっ、これ、ミルクティーですよね? とっても美味しいです! 何が入っているんですか?」  興奮して、僕は彼女に話しかけた。「こんな美味しい紅茶、僕、初めて飲みました!」 「そう言って頂けて、光栄です。これは、普通のミルクティーではなく、ロイヤルミルクティーと言います。紅茶を煮出して作るんです。それから、企業秘密のスパイスも入っています。これは、教えることができません」  悪戯っ子のような可愛い顔をして、彼女が言った。でも、僕が驚き興奮していることが、彼女としても嬉しいようだ。 「いや、でも本当に美味しいです。おかわり下さい」  あっという間に飲み干してしまったので、もう一杯注文する。でも、それにはワケがあった。雨が止んでいないということもあるけど、彼女の真剣な顔を、もう一度見たいと思ったからだ。 「ありがとうございます。少しお待ちください」  彼女がにっこり微笑み、僕が飲み干した空のカップを下げた後、再度湯煎用のポットを持った瞬間、先ほどのキリッとした顔になる。真剣に仕事をする顔。とても素敵だと思った。
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