次の方

　家の近くに閉鎖された廃病院があるのだが、そこは近所どころか市内でも有名な心霊スポットだ。
　出る、出ると言われているが、幽霊を見たという奴は一人もいない。ただ、声を聞いたことがある人間は山程いる。
　病院に入り、待合室に暫くいると、どこかともなく『次の方』という声が聞こえるというのだ。
　辺りを見回しても誰もいないので、幽霊の声だと噂になり、廃病院はすっかり心霊スポットになったのだが、それが本当に幽霊の声なのかどうかは謎のままだ。
　とりたてて器用麩体験などに興味はなかったが、現場が近くのせいであれこれ話を聞くたびに、俺もこの件にはかなり興味が湧いて、真相を突き止めてみたいという気持ちが少しずつ高まり、今日、ついに俺は噂の廃病院に潜入した。
　薄暗い廃病院の待合室に忍び込み、慎重に周囲を確かめ長待合室内を一蹴する。
　暗くて不気味だけれど、特におかしな所はない。怖さもほとんど感じない。
　これが本当に市内でも有名な心霊スポットなのだろうか。
　疑問に思いながらそこいらを見回っていたら、微かに人の声が聞こえた気がした。
　あれ、今何か…誰かが呼んだような…。
　立ち止り、声がした気がする方を窺うが、そこにはやはり何もいない。でも、今度ははっきりと言葉が聞こえた。
「次の方」
　あの噂は本当だった！
　確かに聞いていた通りの言葉を聞いた！
　もう一度辺りを見回ってみたが、やはり誰もいないし、スピーカーのようなもので音声を流している様子もない。
　本当に本物の心霊現象だ。すぐにでも友達に連絡して、廃病院の話は実話だったと話しまくろう。
「次の方」
「はい」