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僕は慌てて帰り支度をして、早足で帰路を急いだ。
家に着くと、僕の家族の靴の他に見慣れない女性の靴が並べられていた。
「坊っちゃん。もう千華さんがいらっしゃっていますよ。」
物音を聞きつけてお梅が台所から顔を出した。千華とは、もちろんお見合い相手の娘、川島千華[チカ]のことである。
「すみません。それで千華さんは今どこに?」
僕は上着を脱いで、お梅に渡す。
「お館様と居間にいらっしゃいます。坊っちゃんも急いでください。」
言われるまでもなく僕は急いで居間に向かった。居間の前に着くと、利彦ですと言って、ゆっくりと襖を開けた。
「遅いぞ、利彦。千華さんを待たせるとは何事だ。」
案の定、父親は怒っていた。そんな父親の向かい側に座っていた千華は父親とは対称的に柔らかい表情をして僕に微笑みかける。その表情は相変わらず美しくて、僕の胸が少しざわめいた。
「遅れてすみません。かなり待たせてしまいました。」
僕は千華の隣に座って、頭を下げた。仕事で遅れてしまったことを何となく言い訳にしたくはなかった。
「いいえ、全く。ですからお父様も利彦さんをあまり責めないでください。」
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