7人が本棚に入れています
本棚に追加
まだ探偵の仕事を続けていきたいことを父親にも千華にも言えてない立場の僕は、ただ口ごもることしか出来なかった。
「家にしても商売にしても千華さんの家の方が遥かに立場が上なんだから。」
もちろん、それは分かっている。だが、そこが問題ではないのだ。
「ふん。お前は昔から優柔不断なところがあるからな。」
酒で顔を赤らめた父親はそう言って再びお猪口に手を伸ばした。すると、隣から綺麗な白い手が父親の大きくて傷だらけの手にゆっくりと被さった。
「そんなに急がなくても私達は大丈夫ですよ、お父様。私はいくらでも待てますから。」
「しかしね、千華さん・・・。」
「確かに家柄のこともありますし、私達の縁談を取り持ってくれたのは、他ならぬお父様達であることも重々承知しております。ですが、そこから先は私自身と利彦さんの意思だけで決めたいのです。だから、私達は大丈夫ですよ。」
千華のその真っ直ぐな言葉に、父親はただ黙って自分の手に重なっている千華の綺麗で長い指先を見るしかなかった。そんな僕は父親以上に千華の言葉がこの胸に突き刺さってしまって、身体さえも動かすことが出来ずに凛とした千華の横顔を見つめていた。
「さて、坊っちゃん。これは困りましたね。」
最初のコメントを投稿しよう!