チャプター1(過去)

14/14
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/95ページ
食器を片付けるために僕の隣に来たお梅が、僕の耳元で僕にしか聞こえない声で囁く。声の調子と表情はどこか楽しげだった。 「女心は変わりやすいという言葉がありますが、それは半端な女にお似合いの言葉。きっと千華さんのような強い女性は、未だに煮え切らない坊ちゃんが考えていること以上に様々なことを考えていらっしゃるはずですよ。」 「・・・分かっていますよ。」 先程千華を見た時に感じたあの胸のざわめきの正体が少し分かった気がした。 千華とのこれからに、探偵という仕事以上の意味や価値があることに僕はやっと気づいたのかもしれない。 それは今日ではなく、きっと千華に初めて会った時から。 「私はずっと待っていますので。高山千華として、1人の女として。」 千華が高山家の人間になる・・・それも悪くない、と僕は思った。それに千華をこれ以上待たせることなど僕には出来なかった。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!