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「1人で大変じゃないですか?」
老婆は口に手を当てて小さく笑う。
「ふふ、心配してくれているのね?」
「あ、すいません。余計なお世話ですよね。」
「ううん、ありがとう。確かに大変だけど、天気の良い日は公園のベンチに座って本を読んだり、そこにいた高校生の男の子とお話したりね。そうそう、この前もその子に私のお気に入りの本を貸してあげてね。」
「高校生ですか?」
「そうなのよ。部活で演劇部に入っているらしくてね、それで参考にって本をね。」
老婆が目を輝かせて話すので、そんな老婆を見ている僕もつい嬉しくなってしまう。
「参考にしてくれるといいですね。」
「そうね。だから、1人でも結構楽しいこともあるのよ。それに・・・。」
「それに?」
老婆の表情が一瞬曇った気がした。
「私の人生はあるところで一回終わってしまったから・・・愛する人や物をその時に全て失ったわ。だからいつお迎えが来ても未練はないの。」
老婆はそう言って僕に笑いかける。僕はそれ以上の事を聞かなかった。悟りきったようなその物悲しい笑顔は、言葉以上の何かを僕に伝えている気がしたからだ。それが何かは具体的には分からないが、人といることがこんなにも居心地が良いものだと思ったことは一度もなかった。
「あの、おばあさん。」
「何だい?」
「迷惑じゃなかったら、これからもおばあさんの家に遊びに来てもいいですか?」
僕は初対面のこの老婆が純粋に好きなんだなと思った。そうでなければ、こんなことを簡単には言えない。
「あら、本当に?もちろんいいわよ、いつでもいらっしゃい。」
老婆はすぐに了承してくれた。
「ありがとうございます。じゃあまた今度遊びに来ます。」
「ええ、待ってるわ。」
「それでは僕、そろそろ帰ります。母親が夕飯作って待っているので。」
「そう、分かったわ。突然孫が出来たみたいで嬉しいわ。またね、坊や。」
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