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「俺は今川才蔵といって、この城の給仕達の親方をやっている。新人が入って来ることは聞いていなかったがな。」
細い目ながらも上目遣いで僕を見る。元々の身長が低い上に腰が少し曲がっているので、より小さく見える。
「片岡家に知り合いがいまして・・・その方の紹介で、急きょこちらで働くことになったのですよ。」
「そうか。それでは今日からよろしく頼むぞ。」
「はい、こちらこそ。しかし、少し前にここで戦があったとは思えないくらい細かい所まで片付いていますね。」
今川も僕につられて辺りを見渡す。
「そうだろう?それが俺達の仕事だからな。戦が終わった後はそこら中に刀やら弓矢やらが散らばっていたよ・・・もちろん死体もな。だが、丸2日かけて、俺達が全て片付けたんだよ。」
「たった2日で?それは凄いですね。」
僕達が今立っているこの場所も想像を絶するような凄惨な状況だったのだろう。
「ちなみに前の主君であった陣内秀孝はどこに?」
「秀孝か?あの渡り廊下を真っ直ぐ行くと奥の間と言われていた部屋があるのだが、そこに1人で座っておったよ。」
今川はその場所を皺だらけの指で教えてくれた。
「座っていた?ということは見つかった時は、まだ生きていたということですか?」
首を左右に軽く振った今川を見て、僕は分かり切った質問をした自分自身を少し恥じた。
「自害しとった。自分の脇差しで腹を真一文字にかっ裂いてな。敵ながら見事な死に様だったよ。」
そう言う今川の表情はどこか誇らしげだった。
「それはそうと、ここでいつまでも立ち話している暇は俺にもお前にもない。今日は庭園の清掃をする予定だから、これからお前にも付き合ってもらうぞ。」
今川は門番に軽く頭を下げると早足で奥の方へと歩き始めたので、僕はその後に続いた。
庭園に着くと、すでに給仕が1人いて黙々と作業をしていた。庭園には一面に砂利が敷かれていて、端に小さな池がある。ここもしっかりと清掃が行き渡っていた。
「お前には落ち葉拾いと草むしりをやってもらう。それが終わったら、鯉に餌やりを頼むぞ。」
「はい。あの、すみません。」
「今度は何だ?」
「秀孝の娘である雪名の死体はこの庭園にあったのは本当ですか?」
今川は少し驚いた顔をして僕を見た。
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