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「しつこく聞いてすみませんでした。それでは仕事に戻ります。」
作業着に着替えた僕は、今川に先程言われた庭園の落ち葉拾いからとりあえず始めることにした。季節は秋ということもあり、庭園には赤色や橙色に染まった落ち葉が庭一面に散らばっていた。僕はそれらをほうきで一点にかき集めていく。しばらく仕事に没頭していると、池の近くの花壇をいじっていた男が話しかけてきた。男は僕よりも少し年上に見えた。
「何か困ったことがあったら私に色々聞いて下さい、小林さん。」
「はい、ありがとうございます。」
「ちなみに私は武田と申します。あなたと同じくここで給仕をやっております。」
武田は謙虚で落ち着いた雰囲気のある男だった。
「武田さんはここで働かれてどのくらい経つのですか?」
「2年ほど前からですな。普段はこのように給仕として働いていますが、10日前の戦には救護兵として参加していました。昔に医術を少しかじっていましたので。」
これは何か聞けるかもしれないと直感的に思った。
「あの戦にですか?」
「そうです。戦とは無縁だと思っていた私も参加しろと言われた時はまさかと思いましたよ。実際の戦というのは、それはもう・・・壮絶なものでした。」
そう言う武田は虚ろな目で何かを追っているように見えた。武田の目に映る何かが、何もかもが綺麗に片付けられ、紅葉で赤一色に染まったこの景色ではないことだけは確かだった。
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