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「・・・分かったよ、土河君。君がいかに真剣に演劇のことを考えているのかが分かって嬉しいよ。それだけで今日は来た意味があったよ。」
佐山は少しだけ表情を緩めて、何度も頷いた。
「今日はとりあえず帰るよ。僕もしっかり考えてみる。」
そう言って立ちあがった佐山と座ったまま動かない僕を、萌は不安げな表情で交互に見ている。
「じゃあまた明日ね。今日はこんな遅くまで土河君の家にお邪魔しちゃって申し訳なかったね。」
僕の隣にいた萌にも軽く会釈して、佐山はドアの音を一切立てることなく僕の部屋を出て行った。
「わざわざここまで来て入部したいって言ってくれたんだから、入れてあげればいいじゃないの。」
不機嫌そうな萌は、僕にそう訴えた。
「さっき佐山が言ってただろう?俺も真剣にやってるんだよ。」
窓の外を見ると、月に雲が薄くかかっていて霞んでいる。その姿が先程の佐山の表情とどことなく似ているように見えた。
「萌、お前もそろそろ帰った方がいいよ。送ってくから。」
僕はその月と脳裏に浮かぶ佐山の顔から目を逸らすように、立ち上がった。
翌日、僕は佐山と一緒に斎藤先生がいる職員室に行き、佐山の入部届けを提出した。
「演劇部に決めたか、佐山。文化祭、頑張れよ。」
斎藤先生はすんなりと佐山の入部を許可した。
「頑張ります。ありがとうございます。」
僕の隣には長かった髪を短く切り、背筋をしっかり伸ばした姿勢で立つ佐山がいた。
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