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勇がこの病院に運び込まれたのは、今からちょうど一週間前の夜だった。今は6月半ばの
梅雨の時期でその時もかなり強い雨が降っていた。偶然公園をジョギングをしていた男性が、頭から血を流して倒れている勇を見つけて、病院まで運んでくれたという。その次の日に勇のお母さんから連絡を貰って私が病院に駆け付けた時には、手術後の麻酔が効いていたらしく勇は眠っていた。
「あとどのくらい入院する予定なの?」
入院してから今日で7日目だった。
「先生の話だとあと2,3日で退院できるってさ。」
「そうなんだ。良かったね。」
それを聞いて一安心した反面、1週間前に起こった事の経緯をほとんど話さない勇が少し気がかりだった。担当の医者によると、棒状の鈍器のようなもので後頭部を殴られたとのことだった。勇は付き合った時からあまり自分自身のことを話さない。今回の場合も私に無駄な心配をさせたくないという気持ちがあるのだろうか。そうだとしても今回に限っては、いつにも増して何も話そうとしない。
「演劇部の皆はどんな感じかな?昨日皆に出来あがった脚本を渡したか?」
俯いていた私の顔を覗き込む。
「うん、ちゃんと皆に渡した。本格的に稽古をしてるところだよ。」
つい最近、老婆から借りたあの本をもとに勇は劇の脚本を書き上げたのだ。脚本が出来上がった事を他の部員よりも先に聞かされた島田君や数人の部員達は自分のことのように喜んでいた。もちろん、脚本が完成までに至った要因として、佐山君の協力があったのも大きかっただろう。
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