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「そっか、それは良かった。俺も早く退院して皆に合流しなきゃな。」
勇はそう言って、病院の窓から外の景色を眺めている。だが、おそらく勇が眩しそうに目を細めて見ているのは、久しぶりに面会に来た孫とベンチに腰掛けて絵本を読んでいるおばあさんでも、喫煙所で煙草を吸っている入院着を着たおじいさんでもないだろう。こんな状態になっても演劇のことを一番に考えている勇に少し呆れつつも、今まで以上に力になってあげたいと痛々しい包帯と横顔を眺めながら私は改めて思った。
「じゃあ私、そろそろ家に帰るね。今日は珍しくお父さんが早く帰って来るから、晩御飯作らなくちゃ。」
下に置いてあったバッグを取って立ち上がった。
「そっか、今日は来てくれてありがとう。あと送れなくてごめんな。」
「ううん、そんなこと気にしなくていいよ。でも元気そうで本当に安心した。」
家族との面会を終えたのだろうか、入院着を着た50歳くらいの男性が右手に果物の盛り合わせを持って部屋に入ってきた。表情もどことなく緩んで見える。
「じゃあ行くね。明日も来れたら来るから。」
「うん、分かった。島田や佐山にもよろしく言っておいてくれ。」
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