チャプター8(現代 金村萌)

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「どうしたの?何かあったの?」 少しの沈黙が私達の間に入ってきた。連れてきたのは加藤だ、私は彼が口を開くまで待ってみた。 「・・・あのさ、1週間前のこと萌ちゃんはどう思う?」 1週間前の事とはもちろん、勇が襲われたあの事件のことだ。もしかしたら勇は昨日見舞いに来た加藤にその件について話しているかもしれないと私は直感的に思った。 「加藤君はどう思ってるの?」 「俺は文化祭の劇はやらない方がいいと思ってる。なんか何かしら起こりそうな・・・危険な感じがするんだよな。」 危険というたった2文字が私の背筋に寒気を走らせた。 「なんで危険だと思うの?」 受話器に口を寄せたのだろうか、加藤の声が先程よりも鮮明に聞こえてきた。 「土河を襲った犯人の目的だよ。」 「犯人は単に無差別に人を襲う人間だったってことじゃないの?」 「土河のバッグに漁られた形跡があったんだよ。それにもかかわらず、そのバッグに入っていた財布は残されたままだったんだよね。つまり、犯人の狙いは始めから土河の別の何かだったってことさ。それに無差別に人を襲うことだけが目的の愉快犯なら、襲った人間の持ち物に関心なんて示さないだろうしね。」 仮に私が犯人の立場だったとして、襲った後に最優先に考えることはバッグかポケットに入っている可能性がある財布や金品だ。それに目もくれず別の何かを探すという選択肢は普通に考えれば有り得ないはずだ。だとしたら犯人が財布よりも優先したものは一体何だ? 「昨日土河が言ってたけど、バッグには財布と勉強道具以外は特に何も入れてなかったみたいだよ。」 私は自転車の荷台に入れていたバッグを取り出し、再び肩に掛けた。 「そんな犯人も犯人の目的も分からない状態で、1つの空間に不特定多数の人間が集まる劇に土河が出るのは危険だと思わない?だからさ、彼女として萌ちゃんからも何か言ってあげてよ、土河にさ。」 もちろん、そのつもりだった。 私は先程通った道を先程の倍以上の速さで戻った。
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