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そんな数日前に自分の身に降り掛かった事件を僕は回想していた。
誰にやられた?と。
「勇!」
先程別れを告げて病室を出て行ったはずの萌が息を切らしながら、ベッドに横になっている僕のもとに戻ってきた。萌は今までに見たことがない表情をしている。
「どうした?忘れ物でもしたか?」
僕はそんな萌を見て、あえて穏やかな口調で話しかけた。何を言われるかが何となく予想できたから。
「やめた方がいいよ、劇。」
「急に何だよ?」
萌は乱れた息を整えるために唾を飲む。
「さっき加藤君から全部聞いたよ。なんで私には言ってくれないのよ?」
呼吸と同じくらい口調も荒くなっていた。だが、それは当り前のことだった、言わない僕が全部いけないのだから。
「ごめんな。」
萌に言わなかったのは心配させたくなかったから、加藤に言ったのは萌以外で信頼できる人間は加藤しかいなかったから。
演劇部の人間には言えないことだったから。
「やるよ、劇。絶対にやる。」
僕は萌の目をしっかり捉えて、そう言った。
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