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周囲を気にする武田が話しやすいように僕も一歩近づいた。
「死体が見つからなかったということですか?」
「ええ。もちろんそれもありますし、知り合いの方もそのように言っていました。あの状況では逃げられる場所など1つもなかったはずなのに、どうしてもまだ1人だけ見つからない、と。」
「・・・そうですか。」
武田のこの話は、土埼城に来て一番の収穫だった。
「ちなみにその見つからない人の名前を?」
その僕の問いへの返答は思いのほか早かった。
「確か・・・水野貴一郎という方です。なんでも前の主君である陣内秀孝の側近だったらしく腕も相当立つということで、片岡家も戦を始める前から注意していた人間だったらしいんです。」
「水野貴一郎・・・。」
2年前に仕事でこの城に来た時にその名前を聞いたことがあった。その当時、この城を統治していたのは片岡家ではなく陣内家で、陣内家は僕の父親が営んでいる酒屋のお得意様でもあった。その繋がりで探偵をしていた息子の僕に城の内部調査の依頼が来たのだ。
当時、僕は新米の家臣に成り済まし色々と調査をしていたのだが、特に問題らしい問題は見当たらなかった。
依頼主であった主君の陣内秀孝とも話す機会が多々あり、その時に水野貴一郎という名前を聞いた記憶があったことを思い出した、最も信頼する家臣として。
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