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「結局死んだということで片付けられていますがね。」
「そうですか。ところで、武田さん。陣内秀孝が死んでいた奥の間という場所はどこにあるのでしょうか?」
「あそこの階段を登って渡り廊下を歩いた先にありますが・・・奥の間は先程私が清掃したばかりですよ。」
武田が示す方向に目をやると、他とは隔離された場所に部屋があるのが見える。
「あの、少し見て来てもよろしいでしょうか?これからもお世話になる所なので、今日のうちに色々と見て回りたいと思っているのですが。」
最初は不思議がっていた武田だったが、そういうことでしたらと快く了解してくれた。
僕は武田の言った通りの道筋を辿って、奥の間の襖を開けた。他の部屋から隔離されているせいか、もしくは日が全く入らないせいか、奥の間は暗く湿っている感じがした。そこは城主の死に場所としては相応しくない場所であることには違いなかった。
部屋には秀孝の母親である陣内静の位牌と仏壇が残されたままになっていた。
「ここで・・・。」
秀孝は1人でひっそりと腹を斬ったのだろうか、母親の前で。
もしくは側近であった水野貴一郎もその場にいて、秀孝の切腹を見届けたのだろうか。見届けた後、水野貴一郎は何を思い、どのようにして消えてしまったのだろうか・・・。
僕は、ある依頼人が書いた一枚の手紙を取り出す。
数日前に家に送られてきたこの手紙を僕は何回も繰り返し読んだ。だが、この手紙を書いた依頼人はもうこの世にいない。僕を頼ってきた依頼人のために出来ることは一体何だろうか?この手紙を読む度に僕はそう思う。割に合わないと思った依頼は基本的に断ってきた僕が、報酬もなく依頼人もいないこの依頼を引き受けなければならないと思った理由は、莫大な報酬や探偵としてのやりがい以上に僕の心を揺さぶるものがこの手紙にあったからだ。
「小林さん、もう部屋は一通り回りましたか?」
庭園の清掃を全て終えた武田が顔を出した。
「はい、おかげさまで。」
「それは良かった。今日の僕達の仕事はこれで終わりみたいなので、そろそろ帰り支度しましょうか。初日のお仕事、お疲れ様でした。」
先程まで真上にいたはずの太陽がすでに沈みかけていて、今では半分しか見えなくなっていた。
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