チャプター3(現代 土河勇①)

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チャプター3(現代 土河勇①)

1582年、世は戦乱の時代。天下統一が目前だった織田信長は、本能寺で家臣である明智光秀の謀反によって殺されてしまう。 この事変が起きたことにより、時代はまた大きく変動していく。 その翌年の1583年、この変動の渦に時代や人々が否応なしに吸いこまれていくのを余所に、海沿いに位置する小さな国である1つの事件が起きる。 土埼城(ときじょう)の変。 それは、現代の一般的な教科書では数行でしか書かれていない小さな事件。 しかし、これから先もきっと僕の人生の中心に在り続けていく事件。僕にとっては一生忘れることなど出来ない大きな大きな事件。 10月のある日曜日、高校が休みなので僕は自転車に乗って図書館に向かった。小さな図書館なので置いてある本こそ少ないのだが、たまに他では置いていないようなマイナーな書物があり、僕もテスト勉強のために普段からこの図書館にはお世話になっていた。 自転車を止めて、図書館に入ると休日ということもあり親子連れが多い。絵本を真剣に読んでいる親子や3、4人で輪になってカードゲームをしている子供たちが座っている長椅子を横切って、返却コーナーに向かう。 そして、持っていたバッグから一冊の本を取り出して、50歳くらいの司書の女性にその本を手渡した。 「返却ですね。あら、随分若い子が返しに来たわね。」 女性は、本と僕の顔を交互に見ながら言う。
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