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第2節「幽霊」
◇
――二週間と一日前。
「あ、見つめてる」
これは大変だと、重たいドアを開け、僕はよろめくように部屋の外に出た。
時刻は深夜二十六時半。葉明学園の寄宿舎は深い静謐に包まれていた。
夜の闇の静けさとは裏腹に、僕の内面は少々穏やかじゃない。二ヶ月と半分ほど前から顕著に現れだした、ある症状がこんな深夜に始まってしまったからだ。
「あー、見ている、明らかに、コレは見ているな」
危ない人のように、一人深夜の廊下で自室のドアにもたれかかりながら一人言をつぶやいてみる。しかし、実際問題として、現在の僕は危ない人だったりするのだ。
というのも、見ている見ているとつぶやいてはみるけれど、僕のことを誰が見ているかというと、別にそこに第三者が存在している訳じゃないからだ。
寄宿舎に忍び込んだ不審者が僕を見つめているとか、そういった事実はいっさい無いのだ。
じゃあ一体誰が僕のことを見ているのか? 実は、あろうことか、僕のことを見ているのは他ならぬ僕自身なのである。
まったくもって不思議な感覚なのだけれど、僕自身が僕を見ているような、そんな感覚に僕は憑かれてしまっているのである。
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