第3節「日本語教師滞在所」

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  ◇ ――相変わらずだけど。    スゴい部屋だと思う。  壁一面に並ぶ木製の本棚に、中にびっしりと詰め込まれた和洋を問わない蔵書(そのほとんどが難しい学問書なのだけれど)。それだけでも壮観な眺めなのだけど、それに加えて、本棚の途切れに設置された大型のコンピュータが大仰な存在感を放っている。  何やら太い配線がタコの足のように何本か飛び出している中央のメインマシンだけでも通の人には圧巻らしいが、それに加えていくつかのサブマシンがタコの本体を守るように設置され、かつお互いが密な線で繋がれている。  書籍と電脳。  この一見相反する二つがそれぞれ強力に自己主張しながら、それでいてお互いを高め合っているような止揚(しよう)された部屋。それが菖蒲さんの部屋だ。  そんな濃い質感に満ちた部屋の正面、稼働するメインマシンに正対する形で、当の菖蒲さんはこちらに背を向けて座っていた。 「菖蒲さん」  深夜に訪れてしまった事情を説明しようと声をかける。  が、菖蒲さんは手だけをこちらにかざし、ひらひらと振りながらそれを制止するような素振りを見せた。 「いいよ。こんな夜中に優希が私の部屋に来る。状況は分かるよ。待ってて、三分したら話を聞いたげるから」
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