第2節「幽霊」

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 幽霊になった僕自身が僕の体から飛び出して、ちょっと外側から僕のことを見ている感じ。この表現が、今まで考えた中ではこの症状を表すのに一番しっくりとくる。  これだけを聞くと、案外なんとも無いような、むしろ幽体離脱体験みたいで面白そうじゃないかなんて思うかもしれないけれど、実はこれが案外、いや、非常にツライ。  まず、幽霊のようにここから抜け出してしまった僕の分、僕という存在が半分になってしまったかのような、非常に夢心地な感覚に僕は捕らわれてしまう。これが何とも自分の存在が薄くなってしまった感じで気持ちが悪いのだ。  そして、存在が半分に別れてしまった負荷が体を蝕んでいるのかどうかよく分からないけど、中々に強い動悸が僕の胸の辺りで始まるのだ。  これが非常にツライ。ここにいる僕は夢の中にいるようなのに、動悸は現実のモノとして感じている。この矛盾がとてもつらい。  まったくもって、矛盾は辛苦なのだと思う。  そんな苦しさにこんな深夜に襲われてしまったものだからたまらない。 「コレは、助けを求めるしかないな」  苦しさを紛らわせるように声を出して、僕は寄宿舎の外へ向けて廊下を歩きだした。  ポケットから精神科医が処方した薬を取り出し、気休めに水無しで飲み込む。  薬なんてまったく効かない所まで自分は来てしまっていることを自覚しているからだろうか、なんだか寄宿舎の出口がとても遠いものに思える。  助けが欲しい、改めてそう思う。  しかしながら、こんな時、助けになってくれる人を僕はこの世でたった一人しか知らない。  その人は、僕にとってこの世で最も信用できる大人で、また同時に、その人は、僕がこれまで出会った中で最も優れた知性を持った女性でもある。  その人の名前は、木間(もくま)菖蒲(あやめ)さんと言うのだけれど。
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