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第4節「年上の女性」
◇
三分で作業に一区切りつけたのだろうか、パソコンの電源はそのままに、菖蒲さんは部屋中央の黒色で背の低いソファに腰を下ろした。
菖蒲さんの座り方はちょっと独特で、こう、ちょこんと膝を抱えるようにしてソファの上に、いわゆる体育座りのような形で座るのが常だ。
細い切り目に艶のある長い黒髪が印象的な菖蒲さんは、今日もいつも通りの少々ルーズな黒いズボンに、菖蒲さんの名を冠したかのような薄紫色の凝った刺繍が施されている上着を纏い、少々僕の目線より下の角度から、ぱちくりと目を見開きながら見上げるように僕の方に視線を送る。
「で、やっぱり調子悪いのかな?」
「はい」
僕は、簡単に例の症状がこの深夜に現れている旨を告げた。
「ふむふむ」
じろりと、正面から瞳が合う。
「じゃあ、まずはこっちに来なよ。人恋しいでしょ。そんなに頭に負荷がかかってちゃ」
「どうにもスイマセンね、何ともかんとも」
初めて隣に来ないかと言われたときは、そりゃ菖蒲さんは年上の人とは思えないほど可愛いらしい人だから、大変ドギマギもしたのだけれど、今ではこの程度のスキンシップは普通に許容できる関係が僕と菖蒲さんとの間にはある。
ここ二ヶ月半、この症状に苦しめられた時は、いつもこうして近い距離で菖蒲さんに話を聞いて貰ってきたのだ。そうすることで、一時的にでも、なんだかとても落ち着くことができたから。
「うんうん」
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