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腕の中で泣いているのは坂元くんで、それを抱いているのは俺なのに、入れ子の様に背中を抱きしめられているような気がする。 でも触れていることよりも、こうやって誰かのことを真剣に考えて慰めることが、不謹慎ながら気持ちよかった。 あぁ、そうか俺は人肌だけじゃなくて人が恋しかったのか、と今更ながら気が付いた。 暫くして大きく息を吐いた後しっかりとした声が聞こえた。 「…すいません。泣いてしまって。今日は、死んだ人の月命日なんです。毎月この日は彼の事だけ考えようと思って、他の人に触れないようにしていたんです」 坂元くんの言葉が俺の脳みそに届くのに少し時間がかかった。 「あ、え?触っちゃった、ごめん!」慌てて手を放す。 「いや、そうじゃないんです!違うんです。今までそうしてきたんですけど、そろそろそういうのを終わりにしようって思ってたんです。今日、こうやってその人の事を考えている時に抱きしめられて、ほんとはこうやって誰かに触れてもらいたかったんだって分かって…だから」 なんてことを言うんだ、そんな切ない事を言われたらまた抱きしめたくなってしまう。 少しためらった後、俺の腕は勝手に彼を抱き寄せる。 暖かく湿った息が首元に当たって、動物を抱きしめている様だ。 でも明日には帰ってしまう出張最後の夜、家からはるか1,000km以上離れた鹿児島で俺が抱きしめているのは、20歳近く歳の離れた青年だ。
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