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鍼は確かに痛くなかった。
しかもツボに打たれたときに微かに重たい感じがして、自分の体が反応しているのが分かる。
枕に顔をうずめながら「う…ん、ずんっとくる」と呻くと、くすくすと笑った後に「響いてるんですね、よかった」と上の方から優しい声がした。
魔法使いから天使に格上げしたい。
1時間の施術の後に、折角だから明日もお願いしたいと伝えた。
青年はちょっと目を見開いた後、申し訳なさそうな表情になった。
「明日は月に一日の ”治療をしない日” なんです」
「そうですか、とてもよかったので残念です」
口ではそう言ったけれど本当は物凄く落胆した。
帰り際、扉のところで
「それでは、ゆっくり休んでください」と言う彼に
「ありがとう、明後日が出張最終日で帰るんです。2日間助かりました」
とお礼を伝えると、坂元くんはちょっと驚いた後何か言おうとためらっているように見えた。
「どうかした?」と聞こうと思ったけど、一緒にいる時間を引き延ばしたくって黙って見ている。
「日中は用事があるんですが、夜、よかったらご飯いかがですか?僕の知ってる美味しいところに行きましょう」
「え?」
思いがけない申し出に声のトーンが上がったのが自分でもわかる。
「それはぜひ、嬉しいな。地元の人のおすすめ、楽しみです」
一も二もなく答えた。
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