サウナにて

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サウナにて

 この御時世、頑張った自分へのご褒美はどれくらいあるだろうか。  ぱあっと散財したいなら旅行が手っ取り早いし、甘い物好きならケーキが並ぶバイキングも良い。お金を使わずとも運動すれば気分はすかっと爽快だし、愚痴を口実に友人と集まるのも一興だ。されどまだ、最高の娯楽が残っている。  それはなにかというと、そう、温泉である。  溜まりに溜まった苦労も熱いお湯に浸かれば、たちまち霧散してしまうものだ。おれにとって温泉とは、神がこの世に与えたもうた楽園である。ということで、一ヶ月の市議会対応をなんとか無事に終えたおれは、行きつけの温泉へとやってきていた。 「ふう、極楽極楽」  おれは雪化粧した富士山の壮大な壁画を仰ぎながら、妖しく緑に光る薬湯にどっぷりと肩まで浸かっていた。硫黄の香りをかぐと、じんわりと毒気が抜けていくようだ。 「温泉は最高だなぁ」  観念としては楽園なのは間違いないけれど、立ちのぼる煙の向こうの実態は地獄絵図とも言える。洗い場では爺さんたちがよぼよぼの体を洗うサービスショットが満載で、通路にはふるちんのガキたちが奇声をあげて走り回っている。情緒なんてあったもんじゃない。 「露天風呂に行くか」     
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