帝王の哀傷

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 ― 3か月前 ― 雷門桂斗はホテルのラウンジで珈琲を飲みながら一服していた。 いつもなら個室か最上階のバーを開けさせて休憩するのだが、今日は政治家先生のパーティーがありすべて貸し切りだったためラウンジの奥まったところで10人ほどの舎弟たちと一休みすることになったのだ。 今日ここに来たのはその政治家先生の急な裏のお願いを聞くためだ。 政治家先生の黒い噂をもみ消したりなんて言う仕事は結構多い仕事だ。自分たちにとってはどうという事もないことも、こいつ等にとっては政治生命を落としかねないスキャンダルなのだ。 「この件は他愛のない案件でしたね。すぐ解決できるでしょう」 恭介が手帳を見ながらチェックマークを入れる。 「まぁ、チャチャッと終わらせろ」 「御意」 琥珀色の液体に口をつけたと同時にラウンジ入り口からボーイ数人に囲まれもめている女が見えた。 「なんだアレ。このホテルも格が落ちたな」 呆れた顔で履き捨てるともう一口珈琲をすする。 「雷門桂斗ー!雷門桂斗はいるー?」 自分の名前を大声で叫ぶ無礼な女に見覚えはない。だがこんな公共の場で雷門の組長が名を呼ばれて放置するわけにもいかなかった。 「真一!」 「はっ」 真一に目配せすると、何も言わなくても意思は通じる。すぐ女のもとに近づき何かしらの説明をして黙らせた。そして真一と女は静かに組長の前に連れてこられる。 「・・・・・貴方が雷門桂斗?」 「おい、言葉に気をつけろ」 真一が女に一喝するも女は意に介さないようだ。矢継ぎ早に次の言葉を発した。 「雷門さん!お願いがあります」 「あ?俺が極道だって知っててそんな厚ましいことを言うのか」 「知ってます。雷門組の組長さんですよね」 「わかってて堅気の女がそうそう声をかけていい人間じゃねぇ」 「・・・・私、堅気って程じゃないんです。もうグレーゾーンって言うか」 「なんだそれ」 「今度、 生駒組の高碕って男と結婚するの」 「ほぉ・・・・極妻になるのか」 「そう、おなかに子供もいるの」 「へぇ・・・・それだったら悩みは旦那に言いな。俺が関わることじゃねぇ」 「それがダメなのよ」 「堅気の女の戯言なんぞ聞いてる暇ねぇんだよ」 「わかっていますけど・・・・貴方にしか頼めなくて」 「恭介、聞いてやれ」 そういって桂斗は立ち上がって地下駐車場に行こうとした。それを足にタックルしてくる。大した根性の女だ。
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