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返事は返ってこない。代わりに、カチャカチャとキーボードを叩く音とマウスのクリック音、デジタル機器の特有の低くうなるような稼働音が聞こえる。 ……集中してるのかな。 「……居間のテーブルに置いときますので、あとで温め直して食べてください」 やはり返事はない。 ため息をついて、襖を見つめる。 古ぼけた襖。変色したそれは、指で押せば簡単に穴が開きそうなほど脆く見えるのに、俺と彼との間を絶対的に隔てている。 それを見ていると、この先どれだけ彼の側にいても、彼の心には踏み込ませてもらえない気がした。 ……そんなことを考えてしまう俺も、奇妙だ。 もうひとつため息をついて、荷物を持ち、玄関に向かった。 *
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