第三章 汚い大人が成り上がる、この世界で

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「……美味しい」  そんな、普段はゴリラのようにモンスターを粉砕する仲間たちは現在、俺が作ったクッキーをリスのようにかじって食べている。  よほど満足しているのか、セナが俺の隣で、ほっこりと満足した顔をしながら食べた感想を漏らしていた。 「ん~! 何度食べても美味しいのじゃ! 芳醇な香りが口いっぱいに広がって、究極の味がするのじゃ!」 「本当すごいよね! 芳醇な香りが口いっぱいに広がって究極の味がするよ!」 「お前らの表現のボキャブラリー酷すぎない?」  究極の味って何? どんな味なのそれ? まだ美味しいって言っただけのセナの感想の方がマシなんだけど。 「ふむ、魂の宝具を捨てたせいで道中何の役にもたたないと思っていたが……以外な特技を持っていたもんだ。俺たちは正直料理が不得意だったからな……凄く助かる」  豪快にクッキーを一口で食べながら、サトウチが感心してかウンウンと頷く。  このパーティーで一番の変態に上から目線で言われるのは癪だったが、実際、料理がなければマジで役立たずのため否定できず、押し黙る。 「お菓子がこんなに身近な食べ物になるなんて思わなかったな~、セイジって凄いんだね! 作ってくれるご飯も毎回美味しいし!」 「うむ! セイジを拾えてラッキーじゃったのぉ! これからは食べ放題じゃぞ?」  三日前の冷たかった態度が嘘かのようなことをレイチェルとミナは口走る。  作ったクッキーを気に入ったのか、あのあと俺は瓶に詰められるだけのクッキーを作らされた。  同時に、料理が得意であることがばれてしまい、旅の道中の料理当番というクソめんどくさい役割を押しつけられるはめになってしまったのだ。  でもまあ正直、これで良かったとは思っている。というのも、ビックリするぐらい俺以外料理が下手だからだ。昨日、試しにそれぞれに作らせてみたが酷かった。  ミナは子供過ぎて包丁の扱いもままならないし、サトウチは野菜の皮を剥かずにぶつ切りにして炒め始めるし、セナはもう斬ることをやめて丸ごとフライパンに野菜を放り込むし、レイチェルは「野菜ってつまり植物だよね? もったないしこれで代用できるんじゃないかな?」とか言って雑草をむしり始めるし、ヒロシはもう本人と同レベルのグロテスクな物体を出してくるわで、色々と終わっていた。
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